Memories of the Inner Journey

最初の思い出

回想

最初の思い出は、庭の裏木戸を開けると、そこは断崖絶壁ではるか地の底に家が一軒建っている情景。恐ろしくてその扉を開けることは二度となかった。
僕は、新宿区四谷三光町に生まれた。近所の助産院だったらしい。母親の遺品の中から当時のちり紙に包んだ僕のへその緒が残っていた。母は、四谷で芸者をやっていた。何度か、置屋に連れていかれたのを覚えている。大きなお屋敷で、たかれているお香のにおいが嫌だったのを覚えている。

四谷の家は2階建てだった。3-4歳までしか住んでいなかったので記憶はあまりない。覚えているのは、2階へ上がる階段の途中にある物干し場。僕は指しゃぶりをしていて、親指に大きなタコを作っていた。母親が指しゃぶりを止めてもやめないので、絆創膏をまかれてしまう。でも指は10本あるのでものともせずにしゃぶり続けた。しまいには10本の指全部にばんそうこうがまかれてしまった僕は、最後はぞうきんをしゃぶっていたらしい。
母親に見つからないように、階段をハイハイしながら登って物干し台に出てしゃぶっていたのをなんとなく覚えている。
母一人子一人だったせいか、甘えん坊で泣き虫だった。

ある日、母親が買い物に出かけるという。お留守番できるかと聞かれ、安心して指しゃぶりができると思ったのか、大きくうなづいた。でも母親が出て言った数分もたたないうちに、「おかーさーーん」と泣きながら外に飛び出した。厚手の靴下をはいていたからそろそろお寒くなっていたころだと思う。外は雨上がりでぬかるんでした。足元の気持ち悪さもあって、大声で泣きじゃくった。それを聞いてお隣の家で鶏が鳴き始め。その家のおばさんが飛び出してきて僕を抱っこして家に入れてくれたのを覚えている。

とにかく僕はすぐに泣いてしまうような弱虫の子どもだったんだ。
路地の突き当りにある一軒家だったのを覚えている
その路地には、つつじがきれいに咲いていた。

ある日、外に出ると、そのつつじの花の周りに子供たちがたくさんいる。
近づいてみると、年上の女の子が、これおいしいよ、とつつじの花蜜を吸わせてくれた。
甘かった。
自然のものを口にしたのが初めてだった気がする。
今でもつつじのピンクの色と、花蜜の味は覚えている。

女の子のやさしさも。

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