Memories of the Inner Journey

第4回 雨上がりのぬかるみ

つぶやきの奥にあるものがたり

ある日、母が買い物に出かけるという。
「お留守番できる?」
そう聞かれて、
僕は大きくうなずいた。

安心して、
だめだといわれていた、指しゃぶりができると思ったのかもしれない。

けれど、
母が出ていって数分もたたないうちに、
胸の奥がざわつきはじめた。

静かすぎる部屋。
気配のない台所。
誰もいない家。

気がつくと、
僕は泣き叫びながら外に飛び出していた。
「おかーさーーん」
声が、路地に響いた。


外は雨上がりだった。
厚手の靴下をはいた足が、
ぬかるみに沈む。

ぐちゅり、と
冷たい感触が伝わる。

気持ちが悪くて、
余計に泣いた。

足の裏から、
不安が入りこんでくるようだった。

隣の家の鶏が鳴いた。
その声に驚いて、さらに泣いた。

怖くて、不安で、気持ちが悪くて。

その声に気づいたのか、
おばさんが飛び出してきて、
僕を抱き上げてくれた。

ぬかるみの冷たさが、
その腕のぬくもりに変わった。
鶏の声が、おばさんの声で消えていった。


触れた感触は、
いまも身体が覚えている。

ぬかるみの冷たさ。
抱き上げられた腕のぬくもり。
不安と安心は、
すぐ隣り合っている。


窓の外を、
ぼんやりと見ていると、
あのとき抱き上げられた

ぬくもりと、
どこか似たものが、

いまも、
この世界のどこかに
あるような気がする。

旅立った妻が、
僕を包み込んでくれているような。

世界は、
冷たいだけではなかった。
いまも、きっと。

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